嬉し泣きするコーギー犬
ある日、何気なく散歩をしていたときのことだ。
大きな家の前を通りかかった瞬間、庭の奥で何かが動いた。
気になって少し覗いてみると、薄茶色のコーギーがこちらを見ていた。
格子の向こう側から、じっと目を合わせてくる。
格子越しに伸びてくる鼻
コーギーは格子の間から鼻先を出し、クンクンと小さく鳴いていた。
吠えるわけでもなく、威嚇する様子もない。
ただ、こちらの反応をうかがっているように見えた。
知らない犬に手を出すのは少し怖い。
噛まれるかもしれないし、飼い主がどう思うかも分からない。
それでも、その鳴き方と目の動きが妙におとなしくて、
気づけば私は手を伸ばしていた。
恐る恐る触れると、コーギーは一瞬だけ体を固くした。
だがすぐに安心したのか、頭をこちらに押しつけてきた。
クンクン鳴く理由
撫でると、またクンクンと鳴く。
さっきよりも、少し柔らかい音だった。
あれは何だったのだろう。
寂しさなのか、嬉しさなのか、それとも両方か。
犬が「嬉し泣き」をするという話は聞いたことがある。
感情が高ぶると、声が漏れることがあるらしい。
もしあれが嬉し泣きだとしたら、
私はあの犬の感情を、ほんの一瞬だけ受け取ったことになる。
自分には縁のない感情
ふと、どうでもいいことを考えた。
自分は、人生で嬉し泣きをしたことがあるだろうか。
思い返してみても、出てこない。
悔し泣きならいくらでも思い出せる。
負けたとき、うまくいかなかったとき、
自分に腹が立ったとき。
それと比べると、
あのコーギーの短い鳴き声は、やけにまぶしく感じた。
賢い犬と、そうでもない自分
コーギーは非常に賢い犬だとよく言われる。
人の表情を読み、距離感を測り、
安心できる相手かどうかを瞬時に判断するらしい。
考えてみれば、
あの犬も私をよく観察していたのだと思う。
危険じゃないと判断したから、鼻を出し、体を預けてきた。
その判断力を、少しだけ羨ましく思った。
私の頭とは、えらい違いだ。
それだけの出来事
しばらく撫でてから、その場を離れた。
振り返ると、コーギーはまだこちらを見ていた。
さっきよりも静かだった。
特別なことが起きたわけではない。
会話もないし、名前も知らない。
ほんの数分の出来事だ。
それでも、不思議と記憶に残っている。
あのクンクンという鳴き声と、
嬉しそうな顔だけが、今も頭に残っている。
まとめ
嬉し泣きするコーギー犬を見て、
自分の感情のことを考えた。
犬は素直で、感情がそのまま表に出る。
人間は、そう簡単にはいかない。
あの日の散歩は、
ただ犬を撫でただけで終わった。
けれど、なぜか少しだけ、心が引っかかったままだ。

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